ベンダー視点からのユーザー企業への期待

CIO Lounge 正会員・中丸 信和

 私はITベンダーに勤務し、地域企業や化学業・流通業大手への営業を担当してきました。主な仕事はシステムやソリューションの提案ですが、受注した案件では営業としてプロジェクトのキックオフから本番稼働まで関わりました。目的や開発規模は千差万別ですが、うまくいったプロジェクトがある一方で納期が遅れたり、追加費用が発生したプロジェクトなどもありました。

 うまくいかなかったプロジェクトには、ITベンダー側メンバーの業務に関するスキル不足や、ユーザー企業の体制の不備、要件定義からシステム設計に進める際の各種齟齬など、いくつかの要因があります。ここでは私が経験した中から、ITベンダーの立場から見た「ユーザー企業の情報システム部門への期待」を整理してみます。論点を明確にするために、1. 情報収集と提案依頼まで、2. ITベンダー選定、3. プロジェクト開発、4. 本番稼働というフェーズごとにまとめます。

情報収集と提案依頼まで

 次期システムの検討にあたり、ユーザー企業の情報システム部門は社内でのニーズを整理するために現場部門からのヒアリングを行い、また対応できそうなベンダーやソリューションを調査すると思います。インターネットで簡単に情報収集できますし、セミナーや展示会も多く開かれているので、情報収集の作業は比較的容易にできると思います。

 このフェーズで一番重要なのは、システム化したい業務要件をRFP(Request For Proposal:提案依頼書)としてまとめることです。最近ではRFPの作成指南などもあるので、項目は網羅できると思いますが、私のようなベンダー側からはそれだけでなく、「魂の入った」RFPの仕上げにすることを期待します。

 「魂の入った」とはどういうことかと言いますと、導入の目的や現状の課題、システム化イメージなどが分かりやすく記述されていることに加えて、経営トップの考え方や企業としての中期計画、実際に使うエンドユーザーとの意見もあまねく網羅した内容に仕上げてほしいということです。これにより、ITベンダーは、最高の提案書を作成できるようになるのです。

ITベンダーの選定

 パートナーの選定にあたっては、ITベンダーの提案内容やプレゼンに対して、評価項目を定めて選定することが一般的です。ベンダーの信頼性(能力、過去実績、事業継続性、安定性)、要件に対する適合性(要件の網羅性と実現性)、プロジェクト体制の妥当性(スケジュール、初期費用とランニングコスト、開発体制と保守体制)などを、項目ごとに評価し、合計を算出する形です。

 ベンダーからの期待としては、提案書の構成力やプロジェクト内容のみならず、提案内容がユーザー企業の組織風土に合っているか、ユーザー企業の本来ビジネスの将来性にも力になれるかなどを、ぜひ評価の対象に入れて真のパートナーとなりうるかの検討も考慮してほしいと思います。

プロジェクト開発

 ユーザー企業とITベンダーが契約を結ぶと、「要件定義」の段階です。説明不要だと思いますが、エンドユーザーの要望をヒアリングし、その要望を実現するために、具体的にどのような方向性やプロセスでシステムを構築すべきかをまとめる、システム開発初期段階の最も重要な作業工程です。私は、プロジェクトの成否は要件定義にあるといっても過言ではないと思っています。

 この要件定義作業では、どうしても「あれも欲しい、これも欲しい」と要求が膨らみがちです。ベンダーの期待としては、プロジェクトの予算やスケジュールを考慮して、「必ず実現したい内容なのか、できれば実現したい内容なのか」を共同作業の中で、ユーザー企業の情報システム部門がリーダーシップを発揮して整理いただければと思います。

 私の考える要件定義の目的は、ヒアリングを通してエンドユーザーから掘り起こした要求内容を明確にまとめ、どう実現するかを文章にまとめ、エンドユーザーにフィードバックし、理解してもらうことです。そのためにも、ユーザー企業とITベンダーは十分すぎるぐらいのコミュニケーションをとり、進めたいものです。

本番稼働

 本番稼働までには、プロジェクトの進捗遅れ、コスト増大、ユーザーデータの整理と検証の困難などなど、いくつかの問題が生じていることが少なくありません。多くの場合、ユーザー企業とITベンダー双方に問題の原因があってそうなったと思われます。

 そこでベンダーの期待としては、一方的に問題の追及をせず、お互い踏み込んだスタンスで解決策を見いだし、一緒になって問題を解決する進め方であって欲しいと思います。もちろんベンダー側に明確な原因がある場合は別です。

 最終的に、ITプロジェクトの成功の可能性を高めるために、ユーザー企業がITベンダーとの関係で重視すべきポイントを整理します。

①パートナーシップの構築
 ITベンダーを単なるサプライヤーではなく、信頼できるパートナーとして位置づけ、企業情報やビジネス目標を早期に共有し、協力関係を築きます。

②共同でのビジョン策定
 業務効率化や事業拡大を目指し、ITベンダーの専門知識を活用して、ITソリューションが最大の価値を提供するよう共に戦略を練ります。

③要件定義の徹底
 プロジェクトの核心である要件定義フェーズでは、ユーザー企業とITベンダーが緊密に協力し、双方が納得するまで議論を重ね、明確な成果物を作成します。

④課題解決への共同対応
 システムの目的と企業への貢献を常に念頭に置き、問題が生じた際は迅速に解決策を模索し、双方が納得の上で前進します。

 以上、ITプロジェクトの成功に向けた重要なポイントを、ITベンダーの視点からご紹介しました。これらのポイントが、ユーザー企業の情報システム部門におけるプロジェクト管理と実行においてご参考になることを願っています。

筆者プロフィール

中丸 信和(なかまる のぶかず)

1980年、日本電気(NEC)に入社。京都での地域対応のソリューション営業を皮切りに、本社で化学業や流通業に特化した事業部でソリューション営業を担当。2003年、中国に赴任しソリューション事業責任者として日系企業や中国政府・中国企業の新規開拓を担当。2008年、流通業の事業部長、2013年、NEC子会社の役員として、民需企業に加え、自治体・図書館・病院なども担当し2018年に退職。2社ほど顧問を経て昨年3月退職。趣味は旅行(温泉巡り)、食べ歩きとお酒。そしてゴルフとスポーツ観戦。