ベンダーロックインの解消方法への考察

CIO Lounge正会員・友岡 賢二

 エンタープライズITがダメになった理由の1つに「ベンダーロックイン」と言われる、ある特定ベンダーへの過度な依存による自社組織の弱体化が挙げられます。情報システム子会社についても、親会社がそこに100%依存している状況はベンダーロックインの一形態です。これを解消するため、内製化などに取り組む情報システム部門も増えています。

 このベンダーロックインの解消について、経営理論の1つである「資源依存理論」をベースに考察してみます(参考文献:『世界標準の経営理論』入山章栄著、ダイヤモンド社刊)。この理論によると、依存関係を軽減・解消するために取り得る戦術は3つあります。①抑圧の軽減、②抑圧の取り込み、③抑圧の吸収です。この3つの戦術をベンダーロックイン解消に適用した際にどのような取り組みになるのかについて、私見を述べます。

① 抑圧の軽減

 あるプレーヤーへの依存度を下げるために、他のプレーヤーを加えることがこの戦術です。ベンダーロックインの状況では、お抱えのベンダーが新しいテクノロジーに関する情報を自社の会議室に持って来てくれました。そうではなく、例えば新たなクラウドサービス導入に関しては、クラウドネイティブな小さなベンダーと新たな取引を始めることがお勧めです。

 とはいえ、AWSを導入する際にどのクラウドSIベンダーと契約すればよいのかは、AWSに聞いてもはっきり答えてくれません。ユーザー会に参加して、自社の目指す使い方と近い使い方をしている企業から直接話しを聞いたり、ベンダーの勉強会で自社のビジネスモデルに近い事例をたくさん持っているかを確認したりして、自分の足で情報を収集する必要があります。自らコミュニティに参加し、ユーザーやベンダーに出会い、教えを乞うのです。

 そんな苦労をしなくても、お抱えのベンダーに対して上から目線で振る舞えば言うことを聞くし、必要な情報も持ってくると勘違いしていないでしょうか。彼らはあなたを神様のように扱うかもしれません。それはお金が湧き出る蛇口にあなたが手を掛けているからであって、あなたが尊敬されるエンジニアであるからではありません。学ぶことを忘れた大企業のエンジニアは自ら外に出て学び直しましょう。自分を育てるのは自分なのです。

 他のプレーヤーが加わると自然とマルチベンダーに変化しますが、その時、「ベンダー同士で私たちのIT環境が最適になるよう話し合ってよ!」と思うような甘い考えは捨てましょう。捨てられない方は滝に打たれて出直してください。ベンダーを束ねてくれる便利なコンシュルジュはどこにもいません。自らがタクトを振って、全体をオーケストレーションしなければならないのです。

② 抑圧の取り込み

 これは抑圧となる外部の相手を自社に引き入れ、味方につける戦術です。具体的には相手企業の役員を自社の社外取締役などに据えるもので、ボード・インターロックとも言われます。日本企業は「ケイレツ」と言われる人を介した企業ネットワークの構築に長けており、このような外部の抑圧の取り込みは広く行われています。例えば依存度の高いITベンダーの社長・会長経験者のような人物を、社外取締役に迎え入れるようなケースです。

 ベンダーロックイン解消のための抑圧の取り込みは、それとは少し違います。伝統的な会社が、クラウドネイティブな企業の創業IT社長を社外取締役に取り込むことです。現在、大企業の社外取締役の中でDXを理解し、自分の言葉で語れる人がどれだけいるのでしょうか。DXを理解した社外取締役がいれば、DXによる機会や経営リスクを見通せるはずです。このような事例が増えれば、日本の大企業も大きく変わるのではないでしょうか。

③ 抑圧の吸収

 依存する企業を買収することにより抑圧を吸収する戦術です。依存するのが大手ベンダーなら非現実的ですが、100%出資の情報システム子会社なら本社に吸収することで、ベンダーロックインを解消できるはずです。①や②に比べても難度は高いと思われますが、その分、DXを推進するボトルネックを解消するための最善の戦術だと考えます。

 もちろん外販中心の事業会社に成長した情シス子会社や、本社以上の高待遇を実現するために作った「エンジニアファースト」の子会社は別です。それらを除く情シス子会社の多くは本体に吸収されるべきだと考えますし、その上で情シス子会社の外側にいるベンダーとの関係をゼロベースで見直します。

 私は特にベンダーと合弁で作った情シス子会社を清算する、あるいは合弁を解消することを提唱しています。ロックインするぐらいのベンダーとの関係は10年どころではないでしょう。合弁は勢いで開始できますが、解消には数年間かかるものです。解消に向けた話し合いは出来るだけ早く始めましょう。お金は借金で何とかなりますが、時間はそうはいきません。

 時間をお金で買う意味で、相応の代償を払ってでも合弁の情シス子会社はいち早く解消すべきだと考えます。捨て金にも見えますが、情シスを軽んじた過去の経営判断への代償であり、情シスの重要性を組織として学んだ学習コストだと思えば、経営者として支払う価値のあるお金=投資であると思います。

筆者プロフィール

友岡 賢二(ともおか けんじ)

フジテック株式会社 専務執行役員 デジタルイノベーション本部長
1989 年松下電器産業株式会社(現パナソニック株式会社)入社。独英米に計 12 年間駐在。株式会社ファーストリテイリング 業務情報システム部 部長を経て、2014 年フジテック株式会社入社。趣味は広島カープ応援、コミュニティ運営(AWS、SORACOM)、ポケモンGO、ドライブ(996C4 6MT)。