技術目線から脱し、相手目線でのIT活用促進を!
1980年に社会人になって以降、筆者は40年強の間、システムエンジニアやシステム管理者、IT子会社の経営者といった職種を経験してきました。仕事を通じてそれなりに会社に貢献した自負はありますが、今、振り返ると「こうしていれば、もっと貢献できたはず」と思うことも少なからずあります。
例えば相手目線の大事さです。「そんなことは当たり前だろう」と考える読者も少なくないはずですが、筆者自身の経験やCIO Loungeで相談を受けて議論をする中で、「相手目線が欠けているのでは」と感じることは少なくありません。今回は、このことについて書いてみます。
多くの企業において、情報システム部門の仕事はシステム構築や導入、運用・保守が中心です。構築や導入に際してはシステム部門が提案書を作成したり、経営者や経営幹部、事業部門の利用者に対して、システムの目的や機能、構成、費用などを説明したりします。ITベンダーからの提案内容を使って説明することもありました。その際、ERPやMES、CRM、EDI、CMS、SSLなどのいわゆる3文字用語や、IoT、AI、SaaS、PaaS、ファイアウォール、UTMなどの専門用語を意識せずに自然に使っていました。デジタルトランスフォーメーション(DX)もその1つです。
しかし経営者や事業側の幹部、利用者は、このような用語を聞いたことはあっても情報システム部門と同様、あるいは近いレベルで理解しているかというと、そのような企業は多くはないと思います。苦い思い出ですが、専門用語や機能論で説明してしまい、経営者から「専門過ぎて分かり難いので、端的に分かり易く貢献度を中心に説明してほしい」と言われたことがあります。
システムをリリースしたら、マニュアルやFAQを作成して提供します。そんな時、機能解説や操作方法の説明が技術者目線になることも多々あり、結果としてそれらが使われない状況もありました。振り返ると、利用者にとってそれが本当によかったのかという点で疑問が浮かびます。「そのシステムや機能の目的は何か(利用者が活用することで事業にどういったいい影響があるのか)」「なぜそういう風に操作する必要があるのか」、「困った事象に対してどうしたら対処できるか」などを網羅し、使う人の立場(目線)で説明を尽くしていただろうかという疑問です。
これらはほんの一例であり、日々、進化するIT・デジタル技術の領域では、新しい用語や概念がどんどん出現します。情報システム部門のスタッフでも、最新動向の理解が追いつかないほどです。経営層や一般社員にとっては、まさしく“ちんぷんかんぷん”なのではないでしょうか?
新システムやサービスの導入も、「似たようなものかもしれない」と思います。コロナ禍になって以降、Web会議システムや企業SNSを利用し始めた企業は多いでしょう。そこにはワンタイムパスワードなど、サイバーセキュリティに関わる機能も含まれるかもしれません。当然、よかれと思って、そして必要だから導入するわけですが、利用者から見た目線で導入した意図の説明を尽くしたでしょうか?それをせずに、通り一遍の使い方をマニュアルとして提供したところで、活用がうまく進むとは限りません。
話は逸れますが、構築・導入・運用・保守が中心だった情報システム部門の任務は、時代と共に大きく変わりました。今日ではITやデジタル技術を活用して、生産性を向上させたり各組織の課題を解決したり、そして投資効果(ROI)を創出することを強く求められます。経営者や社員が自らの仕事や業務の質を高める、創造的な仕事に集中できるようにする、それらを通じて顧客や取引先、社員の満足度を高めるというふうに言い換えることもできます。
いかに活用するかを突き詰めると、活用する立場の人たち、つまり経営者から一般社員にいたるまでの利用者の、システムやサービスに関する知識と知見を深める必要があることが分かります。だからこそ用語や概念を正しく理解してもらう活動が必要ですし、構築・導入したシステムについてもそうです。
ここで冒頭に戻ります。CIOや情報システム部門は、相手目線でIT・デジタル技術やシステムについて説明する責任を果たし、活用を促進できているでしょうか? そうではなく、「どうせ分からない」とばかりに技術目線を通していないでしょうか? これらのことを今一度、見つめ直さなければならないと考えております。
筆者プロフィール
小林 譲(こばやし ゆずる)
1980年、システムエンジニアとして富士通に入社。1985年、大日本スクリーン製造(現在のSCREENホールディングス)に入社し、IT業務全般に関わる。2015年にSCREENシステムサービス代表取締役社長、2019年に会長、2020年に顧問、2021年に退任。現在はCIO Lounge 理事。趣味は登山、料理、日本酒。