経営と真摯に向き合い、IT組織を自ら変革しよう

CIO Lounge理事・坂上 修一

読者の皆様、こんにちは! CIO Loungeの坂上です。私は1981年に食品会社に入社し、情報システム部門や経営企画部門、シェアードサービス会社などを渡り歩いてきました。そんな経歴からか、IT部門の方から「経営との関係の築き方」、経営層の方から「IT投資やIT部門のあり方」について、相談とも愚痴ともとれる話を持ちかけられることがあります。

例えば、IT部門長の方から「経営から『ITのことはよくわからないからよろしく頼む』と丸投げされるが、お金に関しては厳しく言われる。どういうつもりなのか」という話を聞きます。一方、経営者からは「IT投資が適正かどうか、どうやって判断すればいいのか。IT担当がもっと経営や事業を理解してくれるといいのだが……」といった具合です。

最近では、「社長が『DXをやれ』とか、『当社のDXはどうなんだ?』と言うのが悩み。皆さん、どうしているのでしょうね……」という愚痴をあるIT責任者から聞きました。こういったIT部門と経営者、事業部門のボタンのかけ違いは、どうすればいいのでしょう? 私は、コミュニケーションが取れていないことが大きな原因の1つであり、解決策はIT部門自らが変わるしかないと思っています。今回は私が取り組んできたことを通じて、そう確信する理由をお伝えします。

最近では、「社長が『DXをやれ』とか、『当社のDXはどうなんだ?』と言うのが悩み。皆さん、どうしているのでしょうね……」という愚痴をあるIT責任者から聞きました。こういったIT部門と経営者、事業部門のボタンのかけ違いは、どうすればいいのでしょう? 私は、コミュニケーションが取れていないことが大きな原因の1つであり、解決策はIT部門自らが変わるしかないと思っています。今回は私が取り組んできたことを通じて、そう確信する理由をお伝えします。

私がIT部門の幹部を務めていた2009年のことです。グループのシェアードサービス会社が設立され、IT部門をここに移管することになりました。私も出向になると思っていましたが、IT担当として経営企画部門に異動になりました。これが、私にとって転換点になった出来事です。

幹部とはいえ、それまで経営層と話す機会はほとんどありませんでした。経営企画部門では一転して、社長はもちろん事業責任者の方々と話す機会が増えました。当時、大型のIT投資が続いており、社長からプレッシャーをかけられましたが、あの手この手で説明を尽くしつつ、並行してIT投資に関するルールを作り、投資案件の選定や優先順位づけをするようにしました。見えにくいIT投資を、意義を含めて見えるようにするのが目的です。

これらは一定の成果を上げ、そのおかげもあってか中期計画の進捗管理や次期中期計画の立案にも関わることができました。経営企画の3年はあっと言う間に過ぎ去り、次にシェアードサービス会社の常務に異動しました。前述したようにIT部門はこの会社の一部になっており、そこに戻ったわけですが、それで感じたことは、IT部門に元気がないことでした。

従来の業務システムの開発・保守に加え、社内外のコミュニケーションシステム、セキュリティ対策、IT内部統制、海外関連会社を含めたガバナンスなど担当領域は増えています。しかしIT部員は増えず皆、疲弊していたのです。人事部門に毎年のように増員を要請していましたが、食品会社のシェアードサービス子会社ですから、簡単に実現するわけもありません。ではどうするといいでしょうか?

結論を書くと、少人数でも運営できるよう思い切って役割と機能を見直しました。IT部門の役割を「種々の業務システムに横串を刺し、全社最適の観点から業務を考えること」とし、従来のシステム開発中心からコンサルティングに力点を置いたものへと変革させるのです。もともとシステム開発を通じて論理的な組み立てができますし、事業構造やビジネスの流れを俯瞰的に見ていることもあります。

そうは言っても、グループ各社に周知されなくては意味がありません。そこでIT組織変革の取り組みを、次の中期計画(2015~2017年)に組み込むべく動きました。当時はグループが持株会社の体制に移行した直後であり、持株会社、事業会社とシェアードサービス会社で組織・機能が多層化されていことが問題となっており、これを「業務プロセスの見える化」により検証することを、古巣の経営企画部門と共に中期計画に盛り込みました。まとめると、以下の2つです。

  • 通常の業務システム開発や保守・運用業務はアウトソーシングする
  • IT部門に「業務コンサルティングユニット」を新設する

同時にIT部門のスタッフには、業務システムの知見に加えコンサルティングのノウハウを備えた、言わば「多能工化」することを求め、IT中期計画として「業務プロセスの見える化」に取り組むことを打ち出したのです。

このために外部のコンサルタントに依頼して、コンサルティングの基本スキルや、業務部門のキーマンを含めた「業務プロセス見える化」の方法論を学ぶ研修を実施しました。具体的な業務を対象に、パイロット的に見える化する研修も行っています。にわか作りの集団ではありましたが、1年かけて予算策定プロセスの見える化、営業事務(販促費運用)の見える化に取り組み、改善案の答申まで行いました。

その後、シェアードサービス会社の会計、人事、IT部門からメンバーを選出し、物流関係の子会社の業務改革にも取り組みました。また業務コンサルティングユニットをRPA推進ユニットに名称変更しました。単なるRPAの活用ではなく、業務そのものの改廃を行うことで、グループ全体の働き方変革に貢献する意図があります。

こうした施策がどこまで成果を出せたか、正直、あまり自信はありませんが、少なくともIT部門のメンバーの意識は変わり、グループ会社からのシェアードサービス会社を見る目も変わったはずです。長々とこれまでの取り組みを説明しましたが、読者の皆様にお伝えしたいのは、待っていては、つまり受け身では何も変わらないということです。そうではなく、自らが変革して経営、事業部門と真摯に向き合うことです。波風は立つかも知れませんが、経営に認められ、企業にとって価値のあるIT部門に変われると思います。読者の皆様の奮闘を期待しております。

筆者プロフィール

CIO Lounge 理事・坂上修一

坂上 修一(さかうえ しゅういち)

1981年ハウス食品に入社。2016年ハウスビジネスパートナーズ代表取締役社長。この間40年間、ハウス食品のIT業務全般に関わる。2020年に退任し、NECソリューションイノベータ上席アドバイザー。現在、CIO Lounge理事、滝澤鉄工所社外取締役監査等委員。趣味は読書と楽しいお酒、ゴルフ。