ベンダーとユーザーの架け橋になる─その問題意識と意図

CIO Lounge副理事長・加藤 恭滋

本コラムの第1回で、矢島理事長から「CIO Loungeは、企業の経営者とCIO/情報システム部門の架け橋となる」とお伝えしました。経営とITが本来の意味で一体となって動くようにするために、主にCIO/情報システム部門や中堅・中小企業の方々をサポートする所存です。同時にCIO Loungeは、ベンダー企業を支援することも掲げています。今回は、その背景にある問題意識、意図についてお伝えします。

勤務先がユーザー企業かベンダー企業かはともかく、まず読者の皆様にお聞きします。ベンダー企業が提供する技術やツール、ソリューションにはすぐれたものが多々ありますが、それは正しくユーザー企業に伝わっているでしょうか? 特徴や機能をユーザー企業が正しく理解し、活用できているでしょうか? CIO Loungeは、「必ずしもそうではない、それ以上に、理想的な状況からは遠い」と認識しています。

例えば、適切なツールやソリューションを導入すれば済むのに、それをせずに利用者に不便を強いて、人手作業を維持しようとしている/せっかく導入したツールも機能の一部しか活用できていない/計画性に欠ける技術・ツールの利用に伴いガバナンスに手間がかかる……。こんなシーンは枚挙にいとまがありません。これにはユーザー企業側の理解力や聞く力の問題がありますが、同時に伝える側であるベンダー企業の問題も大きいと考えられます。

筆者自身、大和ハウス工業の情報システム部長時代に、多くの提案を受ける機会がありました。担当者と一緒にお会いするのですが、「これは検討に値する」と思える面談は残念ながら少なかったと思います。確かにベンダー自身の会社紹介やソリューションの機能説明は熱心にされるのですが、あまりピンと来ない一方通行の説明が多かったのです。

ベンダーの皆さんは、担当者との商談で情報を得たうえで、部門長やCIOなど責任者への面談に臨んでいると思います。そういった場合、立場や会社の状況により問題のとらええ方に差異があることを考えておられるでしょうか。部門長などと担当者の問題認識は違う場合が多いのは当然ですが、担当者からの情報を鵜呑みにした説明は、筆者の場合、結構苦痛でした。多くはありませんが、面談終了後にエレベーターホールで「彼は何を言いたかったの? 次回、私はいいからね」なんて伝えたことを記憶しています。

何がこのような問題を生じさせているのか、もうお分かりかもしれません。担当者と責任者では問題の優先順位が異なる場合があることがそれです。ごく単純化して言えば、責任者は通常、より大きな視点や長期的な観点で考えており、機能や技術的な問題に集中しがちな担当者とはずれが生じるのです。それを確認するためには、面談の初期段階で世の中の状況や他社の動向など、責任者に有益だと思われる情報を提供したり、会話の中から責任者がどんな問題意識を持っているか把握することが必要です。

そのうえで提案する内容が有効であると確信を持つことができれば、ベンダー側による以降の説明はうまく進むはずです。そうでない場合は、一度仕切り直して担当者と共に検討し直すのがよいでしょう。担当者も自分の仕事に直結するので、どうすれば責任者に理解してもらえるか苦慮していることも多々あります。その意味では、運命共同体であり、一緒に策を練ることで信頼関係を醸成できる可能性も生まれます。

CIO Loungeでは、このような問題への支援策として「複数のCIO経験者によるベンダー社員教育」を行っています。例えば、検討したい提案書を基に説明いただき、複数のCIO経験者が同時に確認しながら、どの箇所をどう修正するとよいかを、率直かつかなり厳しくアドバイスします。通り一遍の機能説明で終始するのではなく、採用事例に頼った説明に依存するのでもない。もちろん料金の優位性だけを訴求するのもダメ。ベンダー企業にはユーザー企業の問題意識に沿った提案をしていただけるよう、強く期待しています。

筆者プロフィール

CIO Lounge 理事・加藤恭滋

加藤恭滋(かとう きょうじ)

1978年、大和ハウス工業入社。経理部門で会計システム構築に携わる。J-SOX推進室長などを経験して、2010年に情報システム部長、2011年に執行役員、2017年に上席執行役員を歴任。2020年3月に退職し、発起人の一人としてCIO Loungeの設立に関わる。趣味は、読書(特に日中歴史小説)、お酒(特にジャズを聴きながら)、下手なゴルフ。