外部委託から内製へのシフトは時代の要請、IT部門は慎重かつ大胆に準備しよう

CIO Lounge正会員・滝沢 卓

 邦銀、特に大手銀行におけるオンラインシステム(勘定系システム)は、昭和40年代に導入された第1次オンラインから昭和末期に構築された第3次オンラインに至るまで、主に内製で開発されました。ここで内製とはシステム化の要件だけでなく、システム設計や開発・保守を自らの責任の下に行っている状態を指します。担い手の全員が社員ではないとしても、自らの責任の下であれば内製です。私は1990年に銀行に入社しましたが、当時は実際にそうでした。

 しかし時代が平成になると大きく変わり、請負契約によるシステム開発プロジェクトが増え始めました。SI(System Integration)という言葉が広まり、銀行を含む一般企業のIT部門では、要件定義などの上流工程と発注者としてのプロジェクト管理が主業務になりました。多くの企業のITが1990年代を通じて、それまでの内製から外部委託へとシフトしたのです。

 そこには、いくつかの要因があります。当時はダウンサイジングが進み、1人1台のPC普及やインターネットの登場など技術が急速に進歩した時期であり、その習得・活用に多くのリソースが必要となりました。IT部門で人材を採用したり、育成したりしていては間に合いません。それよりも専門的なスキルや人材を持つIT企業にシステム開発・保守を委託して効率的に新技術を導入し、柔軟にリソースを活用する意図があったと思われます。

 当時、外部委託の究極の形、つまりシステムの企画から要件定義・開発、保守・運用までの一切を外部に委ねるITアウトソーシングも広まります。この頃、ERPをはじめとするパッケージソフトが注目され始めました。その導入にはERPに長けたITコンサルティング会社に請負で委ねるのが適していたため、外部委託を加速させたと思われます。

 さらに「IT Doesn't Matter(ITは必要だが、競争力や収益向上には直結しない、注1)」という、そんな風潮もありました。

注1:"IT Doesn't Matter"は米国の著述家、ニコラス G. カー(Nicholas G. Carr)氏が米ハーバードビジネスレビューの2003年5月号に寄稿した論文のタイトル。

DXの進展とシステム内製化

 その後、2010年前後の「バイモーダルIT」という考え方を経て、2010年代後半にはデジタルトランスフォーメーション(DX)という概念が登場します。そんな中で「DXのカギはシステム内製化である」という話を皆さんも聞かれたことがあると思います。説明は要しないかもしれませんが、あえて説明しましょう。

 経済産業省が2018年9月に公表したDXレポートでは「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革すると共に、業務そのものや組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と、DXを定義しました。データとデジタル技術を活用するのですから当然、IT部門は大きな役割を果たす必要があります。

 加えてビジネスモデルや企業文化の変革をするには、外部委託では心もとない状況です。またVUCAの状況下においては、顧客や社会のニーズが刻々と変化しています。業務効率化がシステム化の目的だった時代と異なり、顧客満足やユーザー体験向上を目的とする今日では、事前に要件を定義をするのが難しいこともあります。つまり従来の請負契約・ウォーターフォールでの開発には限界があり、このような背景から内製への回帰が注目されるのです。

 もう1つ、「2025年の崖」問題もあります。温存してきたレガシーシステムがブラックボックス化し、変革の足を引っ張りかねないリスク要因になっていることです。DXを推進するにはこの問題の解決が不可欠であり、ブラックボックスを解消する有効な手段の1つが内製化です。

 こう見てくると1990年代の外部委託やアウトソース、2010年代の内製化はいずれも、時代背景や技術と事業の関係などの面で必然性があったと考えられます。時々の状況に対応してきたといっていいでしょう。したがって今日、内製化は簡単ではないとしても多くの企業に欠かせない取り組みであると考えられます。

内製化の取り組みでの“気づき”

①社員エンジニア確保

 冒頭で「内製の担い手がすべて社員である必要はない」と指摘しました。一方で一定数は社員であるべきです。自らの責任ということはもちろん、ノウハウ蓄積やプロダクトへのモチベーションという観点から、これは重要です。かつてのようにシステムをリリースしたら完了というプロジェクト志向ではなく、リリース後の改良が必須のプロダクト志向を実現する上でも、社員の方がその意識が強いはずです。

②新規システムから着手

 内製のプロダクト開発は何から始めるとよいでしょうか。答えは新規システムです。既存システムの改修や移行は環境が整っているというメリットがありますが、委託先ごとに異なる環境やドキュメント整備も十分でないなどハードルが高いからです。内製を成功させ、定着させるには新規システムから取り組む方がベターだと思います。既存システムは、更改などの期を捉え、対処するのが適切ではないでしょうか。

③ビジョンの明確化とステークホルダーの協力

 技術進歩のスピードが増す中、内製化するにしてもIT企業の協力は不可欠です。一方でユーザー企業の内製シフトは、SIerの主要な売上である請負型プロジェクトの減少を意味します。ユーザー企業としては、内製化により目指すところを明らかにし、SIerのビジネス機会を奪うだけではない、共に成長するビジョンを描く事が求められると思います。

 また内製シフトのためにIT部門の社員数を増やすには、その効果について経営への説明責任が生じます。内製化によるコスト削減は分かり易い効果ではありますが、それだけを目指してはSIerの協力は得難く、内製化により開発スピードや柔軟性向上などのアジリティを確保し、それをビジネスの成長や創造につなげていくというシナリオを描くことが重要であると考えています。

 以上、説明させていただいたように私はここ数年、内製化に取り組んできました。しかし投資額で見た割合は、まだ1割程度にすぎません。もっと増やしたいと考えていますが、簡単な施策ではないので拙速に進めるのはリスクも高いと感じます。技術的な準備だけでなく、ステークホルダーとの意思疎通をしっかりと行い、適材適所で適用範囲を見極め、社内だけでなく外部リソースをうまく活用しながら、バランスよく取り組んでいくことが大事と感じています。

筆者プロフィール

滝沢 卓(たきざわ たく)

1990年、三和銀行入社。経営統合によりUFJ銀行・三菱UFJ銀行を経て、auじぶん銀行に出向。その後セブン銀行に転じ、現在 同社執行役員金融ソリューション部担当。その間、海外支店のシステム刷新プロジェクト、経営統合に伴うシステム統合、インターネットバンキングシステム構築などの開発プロジェクトのほか、システム部門の企画・管理業務にも従事する。趣味は、司馬遼太郎や池波正太郎などの歴史小説。